北海道にハマって、北海道の雰囲気を満喫すべく、北海道を舞台とした小説を小樽市の紀伊国屋で探した所、桜木紫乃という作家を見つけました。何か面白い本を探している方、桜木紫乃を知らない方に読んでいただければと思います。
どんな作風?
舞台が北国のためか、はたまた作家が北海道出身で北海道在住のためか、どの作品にも小説全体に肌寒さを感じる空気感の悲哀を描いたものが多いようです。主人公は基本的に女性で、自分を客観視したサバサバとしたタイプが多いです。世間的には悲劇的なことに逢いながらも、自分の道を誰かに委ねるでもなく、もがきながらも自分自身が納得する生き方をしていくという女性が多いようです。
その主人公の潔さが小説全体を引き締め、キリリとした肌寒さに感じる凛々しさなのかも知れません。また、女性作家に珍しく性描写も多く、また登場人物や人間関係も「普通」でない人が多く、とにもかくにも大人な小説と言えます。
また、家族愛も描かれますが、俗にいうアットホーム感はなく、家族ならではのよそよそしい照れくささが、よりリアル感を出していると感じます。
これまで読んだ16冊から3冊を独断と偏見でご紹介させて頂きます。(多少のネタバレはご了承下さい。)
①起終着駅ターミナル
短編集で同名の作品も収められています。佐藤浩市さん、本田翼さんにより、2015年に映画化されています。
過去に心に傷を負う独身の中年国選弁護士。なので、弁護士とはいえ決して裕福ではなく、男性の自炊シーンが多く登場する珍しい小説です。料理は、北海道ならではザンギ(鳥の唐揚)などが出てきます。
そんな時、覚せい剤逮捕者の女性の弁護をすることで物語は展開していきます。桜木作品は悲哀感に満ちた作品が多いのですが、この作品は、中年弁護士と若い女性との心の交流に重きが置かれていて、初心者には読みやすくなっています。
桜木作品には、このような短編集がほかにもあるので、長編小説はちょっと…という方には短編集がお勧めです。「ホテルローヤル」「氷平線」「誰もいない夜に咲く」など。
②裸の華
足を怪我して東京から札幌に戻ったストリッパーが、ダンス・バーをオープンさせる所から、物語は始まります。
貯金をはたき、若いダンサー、寡黙なバーテンダーが集まり、店はオープンにこぎつけます。こじんまりとした店で自転車操業をしながらも、徐々に客の支持を集めていき好転していきます。全体に蔓延していたうすら寒い雰囲気が温まっていく、その展開が実に心地良くなります。
若いダンサーの成長、バーテンダーの過去、テレビ出演など、物語が展開していく中で、様々な信頼関係が構築されて行きます。
そして、店に訪れる変化。その時の主人公の選択は…。
③ラブレス
女3代に渡る壮絶な長編小説。読み終えた時の読後感がすごい大作です。主人公の百合江は壮絶な人生を送りながらも「生きているだけで」が口癖で、人生を肯定する前向きさを持ち続けています。人を憎まず、恨まず、ただ自分に出来ることをしていくだけ。人生で大事なことは、何を獲得したとかでなく、こうしたスタンスを持ち続けることなのかも知れない、と思わされます。
戦後までの苦労の時代とは違い、今や物質的な豊かさが蔓延した時代です。小説の中で現代の部分が出て来ると、かつての貧しい時代背景との違いから、物質的な豊かさは幸福を与えてくれるかどうかは別にして、不幸を遠ざけてくれるものだと小説を読むと改めて感じます。
百合江の姪の小夜子は、血が繋がっていないにも関わらず、やはり淡々とした性格。そのお陰で、物語を読み進めると感じる「憤り」を冷静になって受け止めることができました。
入植者の多い北海道の人の気質なのでしょうか、「どこへ行くも風のなすまま。からりと明るく次の場所へ向かい、あっさりと昨日を捨てる。捨てた昨日を惜しんだりしない。」というくだりが印象に残ります。
最後に
作家デビューするまでの桜木紫乃さんは、なんと専業主婦だったそうです。釧路市に在住だそうで、そのため小説の舞台も道東(北海道東部)が多いです。釧路は雪が少ないためか、小説からも豪雪な雰囲気は少なく、小説での描写が私に正確な舞台のイメージを持たせていることに気づかされました。
なお、桜木紫乃さんも、2013年に「ホテルローヤル」で直木賞を受賞しています。