奥田英朗の書籍、お勧め5冊

読書・映画
2020年5月時点での最新作「罪の轍」
私の好きな北海道も舞台の一つとなっています

私は、面白い本に出合うと、その作家にハマりやすく、同じ著者を読み漁る傾向にあるようです。

そんな私がハマった作家の中から奥田英朗氏(上下巻含めると32冊読みました)の書籍から、勝手にお勧めの5冊をご紹介したいと思います。読書をほとんどしたことがない方、奥田英朗氏をご存じない方に見ていただければと思います。(著者をご存じの方は不要かもですね。)

どんな作風?

人気作家には、ミステリー小説や推理小説の作家が多いですが、奥田英朗氏はどんな小説を書いているのでしょうか。実は、非常に多岐に渡っている稀有な小説家だと思います。

平凡な主人公が、事件に巻き込まれていくスリリングなシリアスもの、破天荒な父親に翻弄される家族のエンターテイメントもの、風変りな神経科医を主人公にしたシリーズもの、女性の友情を描いたもの、アウトローな世界を描いたり、平凡な家庭のトラブルを描いたり、はたまた、社会の不公平を問う社会派小説、そして、短編ものから、紀行エッセイもの・・・改めて文字にしてみても、同じ作家とは思えない、実にバラエティに富んだ作品を書いています。

これだけ多様な作品が好きという私は、単純に「奥田英朗」という人物のファンなのかもですね。

それでは、勝手に私のお勧めベスト5をご紹介します。(多少のネタバレはご了承下さい。)

①噂の女

男をたぶらかす噂の女についての10話の短編小説。2018年にBSジャパンでドラマ化されていたそうですが、私は観れておらず残念です。

いかんせん噂の女ですから、確たる証拠はなく、周囲の偏見や誤解を取り混ぜながら、その女の全貌に迫って行くのですが…、少しずつ噂の女が分かってくる、その過程が最大の魅力です。

しかし、人の噂というのは、結局、本質には辿り着かないということになるのでしょうか…。

②サウスバウンド

帯にも紹介されている個性的な父親が魅力です

破天荒な父親に恥をかかされている少年が主人公。ある日、突然、南の島への移住を父親が決めてしまいます。様々な出来事を読み進めるにつれ、そんな破天荒な父親が徐々に魅力的に感じ、上下巻ある長編小説(1冊になった文庫本出ました。)にも関わらず、気になって読み進んでしまう魅力的なエンターテイメント作品です。

こんな父親だからか、実に示唆に富んだセリフが印象的です。「ケンカは負けるまで終わらない。」、「卑怯な大人だけにはなるな、立場で生きるような大人にだけはなるな。」、「ここは違うと思ったらとことん戦え、負けてもいい戦え、人と違っていてもいい。孤独を恐れるな、理解者は必ずいる。」

③邪魔

タイトルからは中身は分かりません。
でも、最高のクライムノベルです。

平凡な主婦が変貌していくシリアスな長編小説(上下巻)です。主婦、嫁に先立たれた刑事、やんちゃしている高校生が、徐々に裏社会と関わりを持っていく危機感、ドキドキ感がたまらず、読み進むことができる小説です。これも、2015年にドラマ化されています。

そんな平凡な人間たちに、厳しくも本質をついたセリフを裏社会の人間が投げつけます。「汚れたことねえ奴が、きれいごとを言うんだ。」、「面倒なことは他人にまかせ、自分は安全地帯にいたい口だろ。」

そして、逃げられない現実を突きつけられてから自覚する「普通の人の生き方」が、実に胸に刺さるのです。「そうやって周りに支えられ、頭を低くして、地道に生きていけば良かった。」、「守りたいものが守れないとなれば、さっさと逃げ出してしまう人間なのだ。顔向けができない、というのは大きな言い訳なのだ。」、「これまで穏やかでいられたのは、追い詰められたことがなかっただけなのだ。いつも観客の側だった。感想を言っていればよかった。狂ったような恋も、一個のパンを10人で取り合うような争いも、何も経験してこなかった。今それが巡ってきた。そして自分は、あられもなく醜さをさらけ出している。」

作者の「平凡な普通の人」の観察眼に敬服です。

④神経科医師、伊良部一郎シリーズ「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「町長選挙」

物語の軸となる人物が、これほど魅力がないのも珍しい…(笑)

神経科医師伊良部のもとには、様々な悩みを持つ患者がやって来ます。伊良部一郎は、嫌悪感を感じるほどの変わり者で、決して好感を持てるような人物ではありません。しかも、まったく納得のいかない治療方法を施します。毎回、スッキリしない気分の悪さが蔓延して、物語は始まります。

しかし、結局、様々なことが解決していく痛快感は、これまでの小説にはない設定ではないでしょうか。単純に面白い!ドラマ化され、DVDをレンタルしましたが、個人的には小説をお勧めします。

⑤オリンピックの身代金

かつての東京オリンピックが語られる際は、明るい話題が多いのですが…

現代は、格差社会と言われています。しかし、高度経済成長期、オリンピックを控えた東京が沸き立っているのに対して、その頃の日本の地方では貧困が少なくなかったそうです。東北の山の中の村から、家族や地元の期待を背負い、苦学しながら東大へ通う主人公は、そのあまりのギャップに徐々に社会に対して静かな憤りを持つのです。

長身で頭脳明晰、物静かでどこか品を感じさせる主人公は、接する女性が皆ひそかに好意を寄せてしまう好青年。とても大それた事件を起こすような過激な人物ではない所がこの小説を夢中にさせます。そして、主人公の動機には誰もが同情してしまう、やるせない格差が確かにあったのです。そして読者は、主人公に完全に傾いて読み進める…、それがこの小説の最大の魅力ではないでしょうか。

社会の発展の過程で生じる格差についても考えさせられる名作と思います。ご存じの方もいるかも知れませんが、2回目の東京オリンピックが決まった2013年の秋に、松山ケンイチさん主演、刑事役を竹野内豊さんが演じ2夜連続のドラマが放映されています。

最後に

私が、奥田英朗さんの著書に出合ったのは、2015年の夏のことでした。本屋で「何かおもしろそうな本はないかな」と、夏の旅行に携行する書籍として見つけたのが「噂の女」の文庫本でした。タイトルに惹かれ、中身をパラパラとみて、はっきりしない噂話を追いかけるという、珍しいスタイルに興味を持って購入したのが最初でした。

そこからは、奥田英朗氏の作品を読み進めるたびに、小説のスタイルが多岐に渡っているので、毎回新鮮な気分で読むことができました。国語の苦手だった私でも読み進めやすい、分かりやすい文体なのです。後で知ったのですが、奥田氏は、2004年に「空中ブランコ」で直木賞を受賞しています。

コメント

  1. 中村 奈々子 より:

    よこもっこさん今度は本の薦めですか❗素晴らしいですね。
    まさに多趣味である。
    本のあらすじと併せて、奥田英郎さんの魅力がよく伝わってきましたよ。

タイトルとURLをコピーしました